インプレスグループで法人向け情報コミュニケーション技術関連メディア事業を手がける株式会社インプレスR&D(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:井芹昌信)は、電子出版をテーマにした、電子出版産業に携わる人たち向けの、週刊電子雑誌「OnDeck(オンデッキ)」を創刊いたします。創刊号は、12月22日から下記のサイトより無料で発行いたします。
<OnDeckのダウンロードサイト>
OnDeckでは、EPUBというリフロー型標準規格の文書フォーマットを採用しています。リフロー型とは、表示する端末の画面サイズに合わせて、表示文章がリアルタイムにレイアウトされるタイプの電子コンテンツのことで、1つのソースを読書専用端末のほか、iPadやスマートフォン、パソコンなどのマルチデバイスで読むことができるという大きな利点を持ちます。また読者が、読書時に文字サイズの変更が可能になるという特長もあります。
EPUBは、国際的な標準化団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum)が規格策定していることから、世界的に普及し始めています。特に米国では、大手出版社の多くがこのフォーマットを採用しており、今後に期待が集まっています。しかし日本では、まだ縦書きなどの日本語文書表現に対応していないことや、制作手法、配信方式、閲覧するビューア環境が未整備なことなど、まだ発展途上の技術でもあります。
OnDeckは、このEPUBを採用した日本の出版社では初の週刊電子雑誌です。ただ、前記したように読書環境が未整備なので、創刊号から来年2月発行号までを無料とし、表現方法、読者の読書環境、市場などの調査・検証を行う予定です(その間は隔週ペースでの発行を予定)。その上で、2011年3月より週刊の有料メディアとして販売していく予定です。
<OnDeckの特徴>
●電子出版革新を伝えるメディア
電子出版は非常に大きな革新であり、既存の産業や私たちのライフスタイルに変革を引き起こすものだと捉えています。OnDeckでは、関連する製品、サービス、技術、市場などの情報を週刊ペースで迅速にお伝えする予定です(来年2月までは隔週ペース)。
●読者対象
本誌は、出版産業の人と、IT産業の人のどちらにも読んで頂きたいと考えており、それぞれの専門用語を平易に解説するなどに配慮した編集方針をとる予定です。
具体的には、出版社、著者、デザイナー、印刷所、流通業、図書館関係、ネットワークサービス、コンテンツプロバイダー、サービスプロバイダー、ネットベンチャー、ソフトウェア会社、大学関係者などを想定しています。
●文書フォーマット
読者利便を考慮し、なるだけ多くの端末で読めるように、リフロー形式の標準規格「EPUB Ver2」をメインフォーマットとして制作します。ただし、印刷用途などのために簡易組版のPDFも用意します。
対応機種は、
・iPadなどのタブレットPC(画面サイズ:約10インチ系)
・GALAXY Tab、SONY Readerなど(画面サイズ:約6インチ系)
・iPhone、Androidフォンなどのスマートフォン(画面サイズ:約4インチ系)
・Windows、Macintoshなどのパソコン
などで、可能な限り多くの機種(マルチデバイス)のそれぞれの画面サイズ(マルチスクリーンサイズ)でも読めるように配慮していきます。
●EPUBビューワ
EPUBファイルを閲覧するにはEPUBビューワが必要ですが、現状で確認できているのは以下のビューワです。
・Apple iPhone/iPad:AppStoreの「iBooks」
・SONY Reader:標準機能
・SAMSUNG GALAXY Tab:標準搭載の「ブック」
・SHARP IS03、SAMSUNG GALAXY SなどのAndroidフォン
:マーケットから入手した「Aldiko無料版」
・Windows PC/Macintosh:「Adobe Digital Editions」をインストール
●配信方法
現在はEPUB雑誌を配信できるマーケットが充実していないので、インプレスR&Dが運営するサイトからダウンロード形式で配信します。他社様での配信が可能になれば、順次対応していく予定です。
●ビジネスモデル
有料購読を主たる売上とし、近い将来は電子雑誌広告での売上も予定しています。
予定価格: 300円程度(定期購読時の1号の価格)、600円程度(単号販売時)
●ソーシャルリーディング
デジタルメディアとしての利点を活かし、URLリンクやツイッターなどインターネット上のコミュニティと積極的に連携したいと考えています。
●R&Dメディア(実証実験企画)
電子出版ビジネスの進化の過程を自らの媒体を使って実証実験し、その結果を読者や関係企業に還元していくことを計画しています。具体的には、
・各種文書フォーマット配信実証実験
・次世代型電子雑誌広告実証実験
・コンテンツのカスタマイズおよび販売実証実験
などです。ご賛同頂ける企業様を募集いたします。
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<創刊号 予定目次>
創刊にあたり 本誌編集長 井芹昌信
NEWS
今週の読み解き
ニュースクリップ
市況インデックス
今週の用語
電子書籍/電子雑誌/リフロー/XHTML 塩崎泰三
特集1 電子出版革新が、来る!(前編) 高木利弘
・「電子書籍元年」は何だったのか?
・マスメディアvs.インターネットメディア
・実は日本は「電子書籍先進国」だった
・米国発「電子書籍ブーム」のインパクト
特集2 マルチデバイス/マルチスクリーンサイズ時代を見据えて
EPUBの理解
・キーマンインタビュー ビル・マッコイ(Bill McCoy)氏
「EPUBはウェブ技術と整合する国際標準文書フォーマット(前編)」
・今から学ぶ、EPUB入門 山本幸太郎
・メーキングオブOnDeck 編集部
・EPUBの国際規格化ライブメモ 村田 真
FOCUS
グーグルeブックストア 中島由弘
REVIEW
デバイスレビュー:GALAPAGOSモバイル イースト
ビューワレビュー:iBooks1.2 T&Co.
eBookレビュー:「宮部みゆき 暗獣」
INTERVIEW
出版社インタビュー 第1回 PHP研究所
「池上彰『考える力』が3万DLを超える大ヒット」
ベンチャー探訪 第1回 パブー
「ブログ感覚で作品を公開できるインディーズ向けセルフ出版プラットフォーム」
連載
US電子読書風景 第1回 山崎敦史
「Nookが我が家にやってきた」
Innovation from Internet 第1回
Flipboard 「ソーシャルメディアと連携して『自分雑誌』を作る」 仲里淳
自社広告 調査報告書販売サービス「libura PRO」
次号予告と配信のご案内
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<参考:「OnDeck創刊号」より>
創刊にあたり
OnDeck編集長 井芹昌信
「電子出版」という言葉は、過去に何度かブームになったことがありました。たとえば、CD―ROMやDTPが登場した時がそうでしたが、期待のほどには進展しませんでした。しかし、今回の「波」は本物だと予感しています。なぜなら、我々はDTPなどのかつての技術革新に加え、すでにインターネットを手にしているからです。インターネットが流通革命であったことは知られていますが、この電子の流通網があってこそ真の電子出版を実現できる要件が揃うと考えられるのです。
出版の電子化は、メディア産業のデジタル化という面でよく音楽コンテンツの電子化と対比されます。確かに、技術的側面で見れば同様の変革が起きる可能性が高く、その足跡は出版産業の今後の対応に参考にすべき点が多いことでしょう。しかし、「文字」という最も基本的な知識コミュニケーションメディアが主役である「出版」の領域における電子化は、私たちの社会にさらに大きなインパクトを与えずにはおかないと思うのです。
そもそも出版の本質的な役割が知識の伝搬にあるのならば、専門的、局所的なものを含むできるだけ多くの知識が、できるだけ多くの人に、できるだけ安価で安易な方法で流通できることが望まれます。その点において、電子出版は出版の本来的役割を拡張する方法の到来と言えるでしょう。
また、ビジネス的に疲弊しつつある出版業界の課題である返品過多を招く流通問題、多様な企画を商品化するための原価抑制などを解決する方法として、電子出版が登場して来たという見方もできるのです。
本誌「OnDeck」は、この電子出版革新を捉えこれからビジネスに参画される方々を対象に、技術面、産業面の両方の視点で情報発信していきたいと思っています。また本誌自身が電子出版物であることを活かして、様々な実証実験を通して得られたノウハウを還元すると共に、課題提起やそれを議論する場の提供にも心がけたいと考えています。
電子出版はまだ始まったばかりです。できる限りの努力はしたとはいえ、本誌の表現力の未熟さがそれを如実に体現しています。しかし、パソコンやインターネットの初期がそうであったように、また電算写植やDTPの初期がそうであったように、技術革新の波は確実に進展し、課題を解決していくことを私たちは歴史から学んでいます。読者の皆様と共にこの革新を前向きに活用し、新たな出版生態系を創造して行けたらと願っています。
ぜひ、積極的なご参加をお願いします。
<「OnDeck」の名前について>
「OnDeck(オンデッキ)」は、「船の甲板」とか「準備万端」と訳されます。また野球用語では「ネクストバッターズサークル」、ボーイスカウトでは「備えよ」という意味を持ちます。最近では、iPadやAndroid Padでコンテンツやアプリケーションを流通させる行為を「OnDeck」と呼ぶ表記も見受けられるようになりました。
テクノロジー社会の行き先を読めば、電子出版はますます活況を呈するでしょう。ただ、漠然とした未来論ではなく、正確に技術の先端を伝えたい。未来は向こうからやって来るのではなくて、私たちの意思によって創られていく、そんな思いを込めて誌名「OnDeck」としました。
マルチデバイスでの表示。左からSONY Reader、Apple iPad、SAMSUNG GALAXY S